第32話 最終日はトンカツが出てきた

第32話 最終日はトンカツが出てきた

勉強会2日目がスタートした。

フランス料理を食べた翌日の体調は

どうだったかというと、お腹が少し

張る感じはあったが、腹痛にはなって

いない。

便の状態は軟便という感じ。

あと痔ろうから膿が少し出ている状態で、

勉強会前と体調はあまり変わっていない。

昼食の時間がきた。

弁当は幕の内弁当。

おかずはお決まりの鶏のから揚げ。

『これは食べないようにしよう』

他に海老の天ぷらや玉子焼き、煮物、

焼き魚…といった感じだ。

その中で食べても大丈夫な魚や玉子焼き、

煮物の一部を食べた。

残りは申し訳ないが食べずに残した。

午後からもびっちり勉強会。

お腹に少し張りはあったものの何事もなく

2日目の勉強会が終了した。

この日は飲み会などもなく早々とホテルに

帰った。

勉強会3日目。

いよいよ今日が最終日だ。

14時頃が終了予定になっている。

『今日のお昼ご飯が、大勢の人と食べる

最後日だ。

これが終われば食べ物のことを

気にしなくていいぞ!』

そんなに気にしていたのなら、

予め主催者に食べれないものがあると

伝えておいても良かったのだろう。

しかしボクは『食べれない』という

理由を聞かれて、いちいち説明しなければ

いけないことになると厄介だなと考え、

あえて言わなかった。

どちらにしても、あと1食で終わる。

午前の勉強会が終わろうとする数分前、

講師の方がこう言った。

「それでは、もうじきお食事の時間に

なります。今日が最後の勉強会ですので

皆さんと外でお食事をしたいと思って

います。

ここから歩いて5分くらいの場所に移動

しますので、皆さん私についてきて

ください」

『何だってー??外で食事する?』

『何を食べることになるんだ?』

『せめて和食であって欲しいな…』

ボクは予想外の展開に混乱し始めた。

歩きながらも何を食べるのか気になる。

『せめて和食…、せめて和食…』

外食になるなら和食が良かった。

というのもクローン病での安全食が

多いからだ。

しばらく歩いていると昼食会場が近づいて

きた。

まだ遠いのだが、うっすら前に見える

看板を何とか見ようとしていた。

『和食屋さんか?何屋さんだ?』

どんどん会場が近づいてくる。

『あれ?焼肉屋さんか??』

『まさか焼肉が出てくるわけじゃない

よな?』

焼肉店らしき店内に入り、奥へ奥へと

詰めて座っていく。

ボクは奥から2番目の席だった。

向かい合わせに座るもんだから、向かいの

人もいるし、両隣にも人がいる。

逃げれない状態だ。

もう後戻りできない。

場所は焼肉屋さん。

『何が出てくるんだろう…』

皆が話して盛り上がってる中、ボクは1人

何が出てくるのか気になっていた。

そうすると、食事が運ばれてきた。

『あれ?トンカツか??』

『いや、形の違うものもあるぞ』

ただ場所は焼肉屋さん、肉であることは

間違いないだろう…。

トンカツらしきフライもあれば、少し丸い

形をしたものもある。

『それより、この衣どうする?』

『まさか味噌汁だけ飲んで終わりにする

のもおかしいよな…。』

『どうする…?』

全員に行き渡った頃、各自食べ始めて

いった。

ボクも恐る恐るフライの衣を少し取って

中身を確認する。

中身はヒレカツやトンカツ、チキンカツの

三種類カツ定食のようなものだった。

『皆が食べ進めるなか、1人食べないのも

おかしいな…』

ボクはソースをつけ、一口食べてみた。

『うわ~、めちゃくちゃ美味しいわ』

『これだ、この味。トンカツってこんな

感じだったな』

クローン病になって、もう二度と食べる

ことはないだろうと思っていたトンカツを

食べれたときはとても嬉しかった。

反面、『食べちゃったよ…』という

後ろめたい気持ちもあったけれど、

久々に食べたフライの味に強く感動した。

バクバクと食べ進めたのだけれど、

フライも残り1個になった時、急に

『フライの衣まで食べ過ぎてるんじゃ

ないか?』

と、揚げ物を食べ過ぎてることに気づき、

残り1個は衣を極力取りながら食べた。

少し懺悔の気持ちも込めて…。

こうしてボクは、2泊3日の勉強会参加で、

クローン病にとってのNG食を初めて

口にしてしまったのである。

『食べて大丈夫かな…?』という不安な

気持ち。

『食べていいのかな…?』という悪いこと

をしているような気持ちに正直なった。

けれど、それよりも『久々の味』に

感動したことは言うまでもない。

おそらく、この勉強会に参加していなけれ

ば、食べていなかっただろう。

自分1人であれば絶対に食べない。

いや、会社でも周りの皆はボクが食べない

ことを知っているから、食べないことに

何かを言ってくることもない。

絶食解禁後、うどんを食べるように

なった時「うどんとか食べて大丈夫なんで

すか?」と聞いてきたことがあるくらいで

いちいち食べれる食べれないを聞いてくる

ことはない。

もちろん、今回の勉強会でも参加する前に

『これこれこういう理由で食べ物に制限

がある』ということを言っておくことも

できた。

だけどボクは言わなかった。

『イチから説明することになっても面倒だ』

『そんなこと言ったら何て思われるんだろ

?』

と、余計なことを考えてしまったためだ。

これが完全絶食だったらどうだったの

だろう?

まだお粥や雑炊すらも口にしたことが

無かったとしたら…。

勉強会に参加をしなかったかもしれない。

もし、どうしても参加しなければいけない

状況であれば、食事をすることができない

と言っていたかもしれない…。

しかしボクはこの時食べることができて

いた。

親子丼やうどん、蕎麦やオニギリ、鶏の

ササミや玉子焼き…。

クローン病の安全食と言われてる食材

だったが食べることができていた。

そんなこともあって、

『どうせ弁当なんだから食べれない食材は

申し訳ないけど残せばいい』

そう考えていた。

しかし、予想外のことが起きたのである。

クローン病にとってのNG食がたくさん

だったのだ。

食べてしまったものはしょうがない。

後は、体調不良にならないことを

祈るだけだ。

ボクはそんなことを思いながら空港へと

向かったのである。

ーつづくー

ヒロ田

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