ボクは3日間の出張を機に、不良患者
デビューした。
クローン病には良くないとされてる食べ
物を摂取するようになったのだ。
最初はビクビクしていたのだが、一度食べて
問題が無かったことを知ると、なぜか
NG食を摂取することに抵抗がなくなった。
更に、そこまで強気になれたのは、
レミケードがあったことも大きい。
レミケード治療をすることで調子が
良くなっていたからだ。
ただ、レミケード治療も続けていくと、
最初は良くても後半は徐々に効かなく
なってきていた。
ボクの場合は、痔ろうの悪化が主だ。
レミケードの効きが悪くなってくると
痔ろうから膿が少しずつ出てくるように
なる。
しかし、だいたいそうなってくる頃に
レミケード治療が行われるので、体調が
良くなり、またまた強気になれる。
そんな流れだ。
ところが、そんなことを繰り返していた
ある日、ボクは、お腹に違和感を覚える
ようになった。
何となく下っ腹が痛い感じがする。
今までボクはクローン病で腹痛という
ものを体験したことが無い。
だいたいはトイレの回数が増えて、肛門
周囲膿瘍になり切開して膿を出す。
それがボクのクローン病だった。
それも大変だったが、お腹が痛くなると
いうのも経験したことが無いので不安だ。
トイレの回数も増えてきている。
ボクは今までの経験上、食事を減らして
エレンタールを多めに摂取していこうと
考えた。
しかしだ、、、
それでも何だか体調がすぐれない。
ボクは完全絶食にしてエレンタールだけで
しばらく様子を見ることにした。
久々にエレンタール生活。
さすがに久々の完全絶食は空腹感で
いっぱいだ。
飴で空腹感を紛らわす。
空腹感はあるのだが、ご飯を食べたい
というとこまではない。
体調不良になってきていたのだろう。
ボクは強い気持ちでエレンタールのみでの
生活をしばらく続けようと決断した。
それにしてもトイレの回数は減っていかず
増えていくばかりだ。
『なぜだ?今までは絶食してエレンタール
だけにしたらトイレの回数減ってきてた
のに…』
トイレの回数が増えてくると、痔ろうが
悪化してくる。
どうやら新たな場所に膿が溜まってきた
ようだ。
痔ろうで穴の開いてる所からではなく、
穴の開いてない所で痛みが出てきた。
『あれ、、、また膿が溜まってきたなー』
同時に下っ腹もズキズキ痛む。
『穴の開いてる所とつながって膿が勝手に
出てきてくれたら楽になるんだけどな…』
しかし、そんな気持ちとは裏腹に膿は
溜まっていく一方だ。
ボクは膿の溜まっている痛さに限界がきて
いた。
しかも今回は肛門周囲ではなく、睾丸近く
で膿が溜まっている感じだ。
肛門周囲に膿が溜まると、クシャミを
したり、席を立ったりするときに痛む。
『あー、こんな時にも肛門に力が入って
るんだなー…』
普段、無意識だから気づくことが無いの
だろうけど、この時ばかりはハッキリ
わかる。
しかし現実には痛くて関心なんかしてられ
ないのだが…。
席に立つのが面倒になってくるし、
車の乗り降りなんか最悪だ。
今回は、肛門から少しずれて睾丸近くに
溜まったようだ。
だから、席を立ったり、車の乗り降りでは
痛くならない。
ただ、座っていると圧迫されて痛く
なったり、違和感があったりする。
睾丸の近くということもあってか、
歩いても痛くなってきた。
自分の歩いている姿がガラスに映り、
フト見ると股を開いて歩くように
なっていた。
何とも不自然な歩き方だ。
ボクは、肛門科に行き、切開してもらう
ことを決めた。
『あ~あ、また切開か。もう何回目になる
だろうか…』
ボクはいつも行ってる肛門科に向かう。
肛門科の医師もボクが来ると、膿が
溜まったんだなとわかってくれる。
一般的には痔ろうになると手術をして
瘻管を取ってしまえば治るようなのだが、
クローン病は手術して瘻管をとっても、
下痢が続くと新たな瘻管を作ってしまう
ため手術ができないらしい。
その代わりドレーン手術と言って
膿の溜まっているところに二箇所穴を開け、
そこにゴムを通して穴が塞がらないように、
そして常に膿が出ているようにする手術を
ボクは受けていた。
その手術は過去2回行った。
そのゴムも、膿が出なくなってくると、
ゴムが勝手に取れ、二箇所空いてる穴は
皮膚と皮膚がくっつき穴が塞がる。
そんなことで体調が良い時には膿も出なく
なり快適な生活を送っていた。
しかし今回また再発。
今回は肛門付近ではなく睾丸付近だ。
今まで五箇所くらい切開しているけれど、
それ以外にも瘻管を作ってしまうのだから
恐るべし痔ろうだ。
切開するのは慣れているが、局所麻酔が
痛いからいい気はしない。
でも、今回はそんなことも言ってられない。
切開してもらって楽になろう。
そう考えた。
医師「あれ、ヒロ田さんまた溜まったの
かい?」
ボク「そうなんですよー。しかも今回は
いつもと違って、こんなところ(睾丸)
が痛いんです。
こんなとこにも膿が溜まるんですかね?」
医師「どれ、じゃあちょっとエコーで診て
みるかい。
あー少し溜まってるねー。こんなとこにも
溜まるんだなー」
ボク「どうですか?切開できません?」
医師「うーん、切開してもいいけど、まだ
少ししか膿が溜まってないから痛いと
思うなー」
「もう少しパンパンに溜まってたら痛く
ないけど、まだ深いところに膿が溜まって
るからねー」
「少し様子見てさー、どうしても痛く
なったら切開することにしよう」
「もしかしたら穴の開いてるとことつなが
って、そっちから膿が出るようになるかも
しれないしさ」
ボクは切開しなくて良かったというホッと
した気持ちと、このちょっとした痛みが
ずっと続くのかという不安が頭を駆け巡る。
『どうしようか、痛くても無理にお願いして
切開してもらうか?それともこのまま
帰るか…』
数秒間考えた。
けれど、あの局所麻酔の痛さを思い出し、
なおかつ切るときにも痛いのなら、とても
じゃないが『やってください』とは言え
ない。
ボク「じゃあ痛みが強くなったらまた
来ます」
医師「うん、そうだね。二週間分の抗生剤
出しておくからさー、それ飲んで様子見て
それでも痛くなったら切開しよう」
こうして再び肛門周囲膿瘍になったボクは
切開せずに肛門科を後にしたのである。
ーつづくー
ヒロ田