第49話 手術翌日にベッドから起きる練習

第49話 手術翌日にベッドから起きる練習

「失礼しまーす」

朝9時頃、病室のドアが開いた。

レントゲンの機械を押しながら入ってくる

人がいる。

レントゲン技師さんと看護師さんだ。

ヒロ田「どうやってレントゲン撮るんで

すか」

レントゲン技師「寝たまま撮れますので

このままで大丈夫ですよ」

ヒロ田「すごい機械があるもんですね」

初めて移動式のレントゲンを見たボクは

便利なものがあるものだと感心した。

レントゲン技師「お腹の辺りの写真を撮る

ので、背中側にこの板を入れさせていただ

きますね」

名称はわからないが、お腹のレントゲンを

撮るため、背中とベッドの間に四角い板の

ようなものを差し込むようだ。

レントゲン技師「ちょっと持ち上げますね」

そう言って背中を持ち上げる。

「イテテ…」

思わず口から出てしまった。

寝ていると痛みもなく、今すぐにでも起き

上がれるのではないか?

と思っていたのだが、レントゲン技師さんに、

ちょっと持ち上げられただけで凄く痛かった。

背中とベッドの間に四角い板が入ってから、

おそらく1分も経っていないと思うが、撮影

が終わるまで板が入ったままだ。

これが痛かったために時間が長く感じた。

「はい、お疲れ様です。終わりましたー」

そう言いながら板を抜いてくれる。

四角い板を抜いてもらうと、ものすごく

楽になった。

ボクは少し不安を感じた。

『こういう状態でも歩けるのか…?』と。

10時頃になり、手術を担当してくれた

外科医が来て、傷口の確認をしている。

外科医「問題ないですね。昨日はけっこう

大変な手術だったんですよ」

ヒロ田「えー、そうだったんですか?」

外科医「6時間の手術になりましたからね。

でも上手くいきました。傷口の状態も問題

ないですし、順調にいけば一週間で退院も

可能かと思われます」

ヒロ田「ありがとうございます」

看護師「それじゃヒロ田さん、また後で来ま

すね」

そう言い残し医師と看護師さんが病室を出て

いった。

11時頃、再び看護師さんがきた。

看護師「じゃあヒロ田さん、起き上がって

みましょうか?」

ヒロ田「あー、いよいよですかー」

ボクは起きて歩けるということで、自由に

なれるしアチコチ歩けて気分転換できる。

そう考えると嬉しくなってきた。

看護師「まずベッドを少し起こしますので、

ここのヒモを掴んで、引っ張りながら起き

上がり、座るとこまでやってみましょう」

ヒモは、ベッドの柵の足元から、寝ている

ボクの指先辺りまで伸びている。

ボクは、そのヒモを掴みながら起き上がろう

とヒモを引っ張る。

『あれ、痛いぞ…。起き上がれるのか…?』

起き上がりたいのだけれど、思うように

起き上がれない。

大丈夫なのか…?

どうも起き上がれそうにない。

思った以上に痛いのだ。

ヒロ田「いやー、痛くてキツイですねー」

看護師「何とか頑張って起き上がってみて

ください。皆さんもそうやって歩くんです

から…」

ヒロ田「マジですか。ちょっと頑張ってみ

ます」

そう言って何回かチャレンジする。

だが、何度やっても痛くて起き上がれない。

そして、とうとうボクはこう言った。

ヒロ田「明日は間違いなく起き上がります。

今日は起き上がるのが厳しいです」

看護師「うーん…。それじゃ明日にしましょ

うか。でもホント歩けないと癒着するのが

怖いので、明日は頑張ってくださいね」

ヒロ田「はい、明日は絶対起きます!」

優しい看護師さんだったからなのか、

そもそも歩くのは手術の翌日ではなく、

翌々日からでも良かったのかはわからないが、

とにかく今日ボクは起きなくても良くなった。

同時に『明日こそ絶対に起きなければ…』と

いう強い気持ちを持った。

ボクは、今日起き上がって歩けると考えて

いた。

言い訳をするわけではないが、看護師さんが

当たり前のように「翌日から皆さん歩いて

ますよ!」なんて言ってたから、歩けるもの

だと勝手に思っていたのだ。

歩けるものだと思っていたボクは、仕事の

重要な打ち合わせを、1人の社員とするため

に、今日の午後から病室に来てもらうよう

伝えていた。

ところが起き上がることができない。

打ち合わせも今日中に結論を出さなければ

いけなかったので延期するわけにはいかない。

酸素マスクは外れたものの、まだ管が二箇所

ついている状態だ。

一箇所はオシッコが勝手に出るように管が

入っている。

もう一箇所は、お腹の中から血などを排出

させるための管がお腹から出ている。

『こんな管が出ているのは見られたくない

なー…』

どうしようかといろいろ考えたが、予定

通り打ち合わせをすることを決め、現在の

状況を説明し、理解してもらうことにした。

ボクは携帯メールで状況を説明する。

寝たきりで対応すること、管が入っていて

見苦しいことなどを伝え、予定通り病院に

来てもらう。

打ち合わせまでは、まだ時間がある。

ボクはその間、明日のイメージトレーニン

グをした。

『何とかして起きて歩かなければ…。明日

は絶対に起き上がると言ったんだし…』

そう強い気持ちを持つ反面、

『もし起きれなかったらどうする?』

そんな弱い気持ちも頭の中をグルグル回る。

いろんなことを考えているうちに、打ち

合わせの時間になった。

まず、自分の手術を終えてからの今の状態

について説明する。

起き上がる予定だったが痛くて起き上がれ

ないということも伝えた。

その後、社員から近況報告を受ける。

ボクが不在中、よく頑張ってくれているようだ。

20~30分くらいのことだったが、いろいろ

なことが話しできて良かった。

社員が帰ったあとは、ひたすら明日のイメー

ジトレーニングだ。

『失敗は許されない…』

いや、失敗しても大丈夫なんだろうけど、

ボクの中では、自ら『明日は絶対…』と

言ってる以上、失敗は許されなかった。

そのため、起き上がることだけしか

考えないようにしたのである。

ーつづくー

ヒロ田

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