「ヒロ田さん、聞こえますか?」
麻酔科医の呼びかけで目が覚めた。
その後すぐに外科医がボクに話しかけてきた。
「ヒロ田さん、順調にいきました。ただ予定
していたシートン法ではなく、ゴムを通した
だけにしてますから」
ヒロ田「あっ、わかりました」
何を言っていたかはわかる。
ベッドで運ばれてるのもわかる。
けれど、まだボーっとしている。
腹腔鏡で大腸バイパス手術をした時は、話を
聞いてることができないくらい眠気で凄かっ
た。
今回も、その時と同じで運ばれてるときには
寝てしまうだろうな…。
そう思っていた。
ところが徐々に目が冴えてきた。
ボクが寝かされているストレッチャーは、
エレベータから出て結核疑いで隔離されてい
るボクの個室へと入ったようだ。
看護師「ヒロ田さん、痛みがあったり具合が
悪かったりしませんか?」
ヒロ田「ゼンゼン大丈夫ですけど、いま何時
ですか?」
看護師「13時40分ですよ」
ヒロ田「あっ、じゃあ予定より早く終わった
んですね」
看護師「そうですね、順調にいったみたいで
すよ」
ヒロ田「なんか、先生が手術のやり方を変え
たようなこと言ってたなー」
看護師「そうなんですねー。まだ何も聞いて
ないからよくわからないんですけど…」
ヒロ田「うん、後で先生来たとき聞いてみる
から大丈夫です」
看護師「それじゃ、具合悪くなったり、起き
上がるときはナースコールで呼んでください
ね」
ボクは少しボーっとしながら、このあと寝る
ことになるだろうと思っていた。
けれど、そんな思いに反して目が冴えてきた。
少しだるい感じはあるけれど、寝れないから
起きているしかない。
テレビを見る気分でも本を読む気分でもない。
ただただボーっとしていたい。
「ヒロ田さん、どうですか?」
看護師さんが病室へと入ってくる。
ヒロ田「いやー、ぐったりするのかなーと思
ってたけど、目が冴えちゃって…」
看護師「あれ、そしたら起き上がることでき
ますか?」
ヒロ田「あーいいですよー。起き上がって歩
きます?」
看護師「じゃあ、そこまで歩きましょうか。
それ確認できたら次から私たちいなくても
大丈夫なので」
ボクは個室内にあるトイレまで歩いた。
まったく問題ない。
「ヒロ田さん、どうですかー?」
IBD専門医師(以下IBD医師)が病室に入っ
てきた。
IBD医師「どう?ヒロ田さん、痛くないかい
?」
ヒロ田「はい、それはゼンゼン大丈夫ですけ
ど、なんかさっき外科の先生が、手術のやり
方を変えたようなこと言ってましたねー」
IBD医師「変えたって言ってた?いやーボク
も手術室に行って見てたけどゴムを通したり
してた時だったから…。
あれかな、なるべく肛門括約筋を傷めないよ
うに予定と違う方法でやったってことかな…。
後で確認してみるね」
ヒロ田「はい、ボクも外科の先生が来たら聞
いてみます」
当初、手術前の計画はこうだった。
◆ 痔ろうの一次口(腸の部分で穴が開いたと
ころ)が、二箇所あると特定できた。
◆ 痔ろうの二次口(肛門付近やボクの場合は
陰嚢付近も)は、ボクの場合、複数ある。
一次口の二箇所と、いま二次口で溜まってい
る二箇所をシートン法で行い、他に膿が出て
くる二次口は、膿が出やすいように何箇所か
ゴムで結んで膿をキレイに出す。
それが当初の計画だった。
でも、手術が終わってみたら、計画通りでは
なかった。
手術後に、外科医がボクにこう言った。
「膿の溜まってるところは、すべて開放しま
した。ただ、当初予定していたきつく絞める
シートン法ではなく、ゆるくかけて、ずっと
排膿されるようにしましたので…」
麻酔から覚めた直後ということもあり「はい」
という返事しかできなかった。
病室に戻ってきて、麻酔から完全に覚め、普
通の状態に戻ってきたとき、そのことが気に
なりだした。
IBD医師が来てくれて話をしたけれど、IBD
医師は見ていただけで外科のことには詳しく
ない。
外科医が来るまで待とう。
IBD医師が病室から出ていってしばらくする
と、手術を担当してくれた外科医が来た。
「ヒロ田さん、どうです?痛みとかないです
か?」
ヒロ田「はい、痛みとかはゼンゼンないです。
なんか手術のやり方を変えたみたいで…」
外科医「あっ、そうそう、結局ねー痔ろうが
複雑化していて、あまりいじっちゃうと肛門
の括約筋を傷つけると使えなくなっちゃうか
ら、極力、括約筋を傷めないような手術に変
更したんです」
ヒロ田「なるほど、それなら良いんですが、
何かあったのかなーと思って気になってまし
た」
外科医「これで膿はキレイに出ていくと思う
ので、あとは消化器の先生が腸の状態を良く
する治療に入っていくと思うので…」
ヒロ田「わかりました。ありがとうございま
した」
なぜ計画変更がされたのか気になっていたの
で、それが聞けただけで安心した。
何せ、全身麻酔しているから計画変更しても
その場で聞くことはできない。
そういった点では全身麻酔じゃないほうが
良いのかもしれない。
下半身麻酔であれば会話はできるから…。
でも、起きてるっていうのもそれはそれで
嫌なのだが…。
とにかく計画と違っていたけれど、無事に終
わったので良かった。
膿が出てくれれば楽になるのだから…。
手術が終わった後は、下着をつけてはいるけ
れど、下着の中はガーゼなどをつけてテープ
でビッチリ止められている。
この状態でいたいのだが、トイレに行きたく
なったときが大変だ。
そんな時に限って便意を催す。
『マジかよー、何だか手術後に行くトイレは
嫌だなー』
そう思いながらも漏らすわけにはいかないの
で、ベッドから起き上がりトイレへと向かっ
たのである。
ーつづくー
ヒロ田