第9話 絶食前の晩餐

第9話 絶食前の晩餐

大腸カメラの検査結果で、クローン病と

診断された日から絶食を告げられた。

『そうか絶食か…』

絶食ということは理解できた。

しかし、深く考えていなかったのか、

食に欲求が無かったからかわからないが、

落ち込みはしなかった。

だが病院からの帰り道。。。

【ステーキヴィクトリア】の看板が

目に入ってきた。

カメラが終わってから、けっこう時間も

経過していたし、朝から何も食べてない。

『そうか、絶食なんだったな。

でも絶食前に最後なにか食べよう』

そんな気持ちになってしまった。

ボクは店内へ入っていく。

肉も良かった、ハンバーグもいい。

でもボクはチキンにポークウィンナー、

ハンバーグの3つが入ったミックス

グリルチキンにした。

食べ終え、自宅に戻ってからは、

検査の疲れか、それとも検査で使用した

眠くなる薬のせいかわからないが、

3時間くらい寝てしまった。

起きたのは夜の8時。

何となくお腹がすいた感じだったが、

さすがに食べるのはやめようと我慢した。

最後に食べたことで、トイレは6~7回

行くことになった。

『こうなるよね~。絶食って言われて

食べてるんだから…』

少し罪悪感があったけれど、明日から…

というより今からは食べないから

トイレの回数も減るだろうし、少しは

楽になるんじゃないかな。

そう簡単に考えていた。

次の日になり、仕事へ向かう。

あと1週間後に迫った店のオープン

準備のために。。。

ビジネスパートナーに昨日の検査結果、

そして入院するということも伝えた。

6月10日がオープン日。

そしてこの日がボクの入院日でもある。

2週間は入院が必要と言われたのだが、

ボクは予め医師に入院期間中、外出は

できないか?ということを聞いていた。

順調にいけば、8日目から午前中だけは

外出しても良いとのことだった。

そうなれば午前中だけ店に来れる。

そんな打合せをしながら、店づくりを

進めていった。

ところが、朝から何も食べてないからか、

体調不良からなのかわからないが、

身体がとても怠く、長時間立っているのが

辛くなり、休み休み作業することとなる。

何とか1日を終えて自宅に戻り、

すごい空腹感だったため、医師から処方

されたエレンタールを飲むのが、少し

楽しみだった。

エレンタールの粉末を専用の容器に入れ、

ぬるま湯で溶き、飲める状態にする。

一口飲んでみた。

『おっ、甘くて美味しいかも!』

何も食べてないボクは、糖分が不足して

いたからか、最初の一口が美味しく感じた。

しかし二口目…

『うわぁ、不味いなやっぱり…』

二口目は不味く感じた。

でも、食べてないからカロリーを摂取

しなければと、三口目も飲んでみた。

『うわぁ、やっぱりダメだ。。。』

とてもじゃないが飲めたもんじゃない。

ボクは飲むことをあきらめた。

動くのも怠いボクは、自宅のソファーで

横になり、トイレに行く以外は動かない

ようにした。

絶食も2日目がスタート。

いつものように準備中のお店に行く。

店作りを開始するのだが、どうも体力が

なく、すぐ横になりたくなる。

ビジネスパートナーには申し訳ないが、

横になる時間を多く作ってもらった。

しかし、それでも長い時間は出来なく、

夜まで体力が持たない。

絶食2日目から、ボクは15時くらいに

店を出て家に帰るようにした。

家に帰り、ソファーへ横になる。

エレンタールに再チャレンジするも、

やはり飲めない。。。

空腹感は飴を舐めて紛らわした。

こんな毎日の繰り返しで、絶食3日目、

4日目と過ぎていく。

絶食5日目に入ったころ、

なんだか急激に体力が落ちてきた。

カロリー摂取ができていないからだろう。

自宅にいながら何もできない自分がいる。

ソファーに横たわっていることしか

できない。

16時頃だっただろうか。。。

孤独感でいっぱいになってきた。

人間、体力がなくなるとそうなるのか…?

孤独感いっぱいで、なぜか自分だけ

取り残されている気がした。

何だか急に淋しい気持ちになり、

気づけば、携帯電話の住所録を開いていた。

考えたら、クローン病になったという

ことを親に伝えていなかった。

電話することで、心配すると困るな。と

いう気持ちが強かったのかもしれない。

しかし、何かあった時のためにも

伝えておこう。

そして親に電話をする。

何を話したか覚えていない。

ただ、かなり心配すると思っていたが、

以外にもあっさりしていたことは

記憶している。

友人にも電話した。

クローン病になり、入院することに

なった。というと、誰もが

『えっなに?クローン病?』

当時、全国で3万人と言われてる難病だ。

無理もない。

さらに、当時は羊のクローンが世間を

賑わしていたこともあり、ほとんどの人が

クローン=羊。

という解釈だ。

『いや、羊とはまったく関係なく、

クローンという人が発見した病気で

腸に潰瘍ができて…』と説明する。

そして、

『健康には気を使ったほうがいい』

ということも伝えておいた。

あれだけ嫌だった入院も、

これだけ体力が弱ってくると、

『早く入院したい』

という気持ちが強くなってきた。

それくらい体力が無くなっていたのだろう。

起き上がるのもやっとの状態だった。

ーつづくー

ヒロ田

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