第166話 ストーマ手術のための入院三十六日目(手術前日)はお臍の掃除

第166話 ストーマ手術のための入院三十六日目(手術前日)はお臍の掃除

2016年4月27日水曜日、入院して三十六日目

の朝がきた。

待ち望んでいた手術まであと1日となった。

『手術まであと1日だ。これで楽になれるぞ…』

そう思ってはみるのだが、何せ常に襲ってくる

便意で、ホトホト疲れ果てていることも確かだ。

入院した時、いやその半年くらい前から便を少量、

オムツに漏らすくらいは慣れてきていた。

平均1時間に3~4回は便意が襲ってくる。

最初のころは毎回トイレに駆け込んだ。

しかし、便意はあるが出てこない。

だからトイレから出る。

でもトイレから出てきて椅子に座った途端

またトイレに行きたくなる。

で、今度は少量の便が出る。

こんなことを繰り返しているうちに、童謡の

オオカミ少年じゃないけれど、『また便意が

あってもどうせ出ないんでしょ…』

と思うようになった。

そのため便意が襲ってきても『いまトイレに

行ってきたばかりだから出るわけがない…』

そう思っていたりするとボクのこうもん様が

お怒りになる。

トイレに行かず放っておくと出てきてしまう

のだ。

もちろんオムツが受け止めてはくれるが…。

そんなこうもん様の機嫌を取りながら上手く

やっていこうと思っていたのだが、こうもん様

はどんどん機嫌が悪くなる。

何とか頑張ってこうもん様の機嫌とりに徹して

きたが、とうとうボク自身に限界がきて大事な

こうもん様とお別れする決断をした。

そして入院三十六日目のこの日、そんなこう

もん様とお別れする1日前になったのだ。

『いよいよ明日お別れだ』

と嬉しくなる気持ちと裏腹に、こうもん様は

コレでもか…と追い打ちをかけるように試練

を与えてくる。

『食べてないのだから漏れても少量だぞ、

こうもん様…』

そう思ってトイレに行かないでいると、こう

もん様は少しお怒りになるのだろう、いつも

より割と多めに放出させる。

それでもボクのパンツ型オムツは優秀だ。

きっちり受け止めてくれる。

『よし、何とか漏らさず済んだ。トイレにいこう』

そう思って立ち上がった瞬間、なんとオムツの

ゴムのちょっとした隙間からツーっと流れ出て

くるではないか!!

漏れ出て自分の太ももなどが汚れるならまだ

良いが、病院から借りているパジャマやシー

ツなどに漏らしてしまったら大変だ。

そんなことを入院している期間ずっと思って

きた。

入院三十六日目のこの日もそのことで頭いっ

ぱいだった。

いや、思い起こせば半年くらい前からそんな

ことばかり気にしていたように思う。

『オムツ内に漏れるのはしょうがない。

でもオムツ外に漏れ出すのは嫌だ…』

当初は、入院して間もなく手術ができると

思っていた。

しかし、いろんなことが重なり手術が延びに

延びた。

これには精神的にもかなりやられた。

そんな戦いも明日で終わる。

だが、そんな戦いもあと1日あるとも考えら

れる。

やっと明日手術できる。という気持ちとあと

1日この便意と闘わなければいけない。

という不安な気持ちとで夜中に何度も目が

覚めた。

いや正確に言えば便意が襲ってくるのは問題

ない。

オムツに漏らすことも問題はない。

ただ、オムツ外に漏れるのは勘弁だ。

これしかない。

自分だけに起きることであれば問題ないの

だが、オムツ外に漏らすことで他の人に迷惑

がかかってしまうことだけは避けたい。

それだけなのだ。

だからボクにとっては長い1日とも言える

だろう。

外科医「ヒロ田さん、おはようございます」

外科医が病室へとやってきた。

そんなことを考えているうちに朝の回診時間

が来たようだ。

ヒロ田「あっ、おはようございます」

外科医「いよいよ明日ですね。昨日お話した

通りですので頑張っていきましょうね」

ヒロ田「わかりました。よろしくお願いします」

「そういえば下剤って飲まなくて大丈夫なん

ですか?」

外科医「そうですね、ずっと絶食してるし

飲まなくて大丈夫です」

ヒロ田「わかりました!良かったです」

ただでさえ便意が凄いのに、下剤を飲むこと

になったらもっと凄いことになるから飲まな

いと聞いて安心した。

看護師「ヒロ田さん、シャワーの時間て決まり

ました?」

ヒロ田「そうですね、13時にしました。

午前中にしようと思ったんですけど、なるべく

遅いほうが良いかなと思って…」

看護師「あっ、別に早くても良かったんです

けどね。でも13時で大丈夫ですよ。

それじゃあ14時くらいにお臍の掃除をしようと

思いますので、そのくらいの時間になったら

また来ますね」

ヒロ田「わかりました。ところで今日はお臍の

掃除くらいしか予定はないんですか?」

看護師「そうですね、それ以外は何もないです」

ヒロ田「手術前だからもっと何かありそうで

すけどね(笑)」

看護師「いえ、もう何もないので明日まで

ゆっくりしてもらって大丈夫ですよ(笑)」

ヒロ田「良かったです。お臍の掃除ってくす

ぐったいですよね?耐えれるかなー(苦笑)」

看護師「大丈夫だと思いますけどねー。なるべ

くそうならないように頑張りますね(笑)」

予定が入っていたら入っていたで嫌だけど

入っていなかったら入っていなかったで、

それもまた嫌だ。

何ともわがままなものだ…。

そんな予定が入っていないのにも関わらず、

頭の中は忙しい。

頭の中の大半は『漏らさないか?』という

ことだが、それ以外にストーマになってから

どのくらいで退院できるか?

退院までに食事することになるのか?

ストーマになったら細いスキニーのような

パンツは履けなくなるか?

ストーマになったら、ボクに近づくだけで

臭いと思われないか?

ストーマになったら、パウチ(袋)に便が

溜まることでズボンが膨らんで周りに気づ

かれないか?

そんなことは入院してからWOCナース

(ストーマ専門の看護師)にも聞いて解決

していることなのだが、再び頭の中を駆け巡る

こととなった。

そうこうしているうちに入院三十六日目の

消灯時間がきたのである。

ーつづくー

ヒロ田

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