第167話 ストーマ手術当日(入院三十七日目の朝)

第167話 ストーマ手術当日(入院三十七日目の朝)

入院三十七日目の朝が来た。

待ちに待ったストーマ(人工肛門)手術当日

の朝だ。

消灯時間に寝て起床時間にはきっちり

起きるという規則正しい入院生活を送っては

いたものの、夜中だろうと関係なく便意は襲っ

てくる。

そんな便意のことを気にせず寝れる時間は

1時間30分~2時間てとこだろう。

それが半年くらい前から続いている。

ストーマ手術前日の夜からストーマ手術当日の

朝までの時間も、相変わらずそのリズムが崩れ

ることはない。

そのため、どうしても夜中に何度かトイレに

起きてしまう。

一度起きると目が覚めてしまうので余計なこ

とを考えることになる。

『いよいよ明日かー。辛かったな…』

『明日で本当にこうもん様とはお別れか…』

『こうもん様にはたくさん腹が立ったけど、

明日で本当にお別れとなったらそれも寂しい

もんだな…』

『こうもん様には腹立つなーと思ってたけど

考えてみたらこうもん様にも無理させてたな…』

『もう少し早くストーマになる決断をしていた

ら、こうもん様もそんなに怒らずにすんだのか

もな…』

『こうもん様には無理をさせてしまった。申し

訳ないな…』

『今まで頑張ってくれてありがとうって感じ

か…』

『そうだな、感謝しかないな…』

そんなことを思っては寝て…

気づけば1時間くらいで便意を催して…

また同じようなことを考えて…

そんなことをしているうちに起床時間と

なった。

看護師「おはようございます。朝の検温と

血圧を測っていきますねー」

ヒロ田「お願いします」

看護師「ヒロ田さん今日手術ですね」

ヒロ田「そうなんですよー。やっと手術でき

ます」

看護師「けっこう待ってたんですか?」

ヒロ田「そうなんです。もう一ヶ月以上入院

してます」

看護師「あー、それは長かったですね」

ヒロ田「そうですねー。長かったです」

看護師「じゃあ今日頑張ってくださいね」

ヒロ田「はい、ありがとうございます」

いつもと変わらない朝だ。

手術の朝と言えども常に便意はあるから

気は抜けない。

こうもん様とお別れする前にパジャマや

シーツを汚すわけにはいかないから気を張って

ベッドで横になっている。

ボーッとしていると余計なことを考えてしまう

からテレビを見ることにした。

『時間が経つの遅いなー…』

『またトイレ行きたくなってきた…』

『まだこんな時間か…』

『でも手術することでこの便意ともお別れだ

な…』

『であればこの便意を楽しんでおくか…』

そうは思ってみても頻繁にくる便意に嫌気が

さす。

『なかなか楽しめないわ…』

『これ手術室に入って麻酔効く前に便意を

催したらどうなるんだ…?』

『麻酔効いてからならわからないからいいけど

手術台に横になって漏らすわけにはいかないし

な…』

気を紛らわすためにつけたテレビも全く意味が

ない状態だ。

外科医「ヒロ田さん、おはようございます。

どうですか?」

ヒロ田「おはようございます。ちょっと便意が

気になっているところでした」

外科医「今日、この後ですからね、頑張りま

しょう」

ヒロ田「あれ、そういえば先生が今手術してる

わけではないんですね?」

「2番目っていうから朝も先生が手術していて

それが終わってからだと思ってました」

外科医「あー、手術室がね1番目に使う人がい

てヒロ田さんが2番目って意味なんですよ」

ヒロ田「なるほど、そういうことですか」

外科医「そうなんです。じゃあ、今日は頑張

っていきましょう」

ヒロ田「よろしくお願いします」

手術当日も、いつも通り朝の回診があるよう

だ。

気づけば時計の針は10時30分を指していた。

ヒロ田「あれ、もう来たの?」

11時に来ると言っていた父親が30分前に来た。

父親 「早かったか…?」

ヒロ田「いや大丈夫だけど、けっこう待つと

思うよ」

父親 「それはいいんだ。思ったより道が

空いてて早く着いたんだわー」

父親と話をしていても便意が襲ってくる。

父親と会話→トイレ→会話→トイレ…

病室とトイレを行ったり来たりしていると

看護師さんが来た。

看護師「ヒロ田さん、長病衣持ってきました

ので着替えて待っててもらっていいですか。

あと検温と血圧をもう一回測るのと、点滴

つないでいきますね」

ヒロ田「着替えると手術が近づいてきたって

感じがしますね」

看護師「そうですね、もう少ししたら呼ばれ

ると思います」

「あと、手術終わったら別の病室に移動する

ので、貴重品があればセーフティボックスに

入れて鍵は持って行ってください。手術中に

荷物は移動しておきますので」

ヒロ田「わかりました」

看護師「じゃあ点滴も変えましたので、呼ば

れたらまた来ますね」

ヒロ田「呼ばれてから手術室に向かえばいい

んですよね?」

看護師「そうです。ただ、オペ室の看護師に

引継ぎもあるので私も一緒に行きますからー」

ヒロ田「あっ、そうなんですね。わかりました。

じゃあ病室で待ってますね」

11時過ぎたあたりからバタバタしだした。

時計が11時30分近くなると、呼ばれるのでは

ないか…、便意は大丈夫か…

そんなことばかり考えて父親がボクに話して

いることも頭に入ってこない状態だ。

看護師「ヒロ田さん、オペ室から呼ばれまし

たので準備お願いします!」

ヒロ田「わかりました!」

手術室に向かう時間が来た。

と同時に、お世話になったこうもん様と

お別れする時間も近づいているということだ。

ボクは、やっと手術ができるという嬉しい

気持ちと、こうもん様とお別れする悲しい

気持ちが入り混じり、複雑な気持ちでベッ

ドから立ち上がったのである。

ーつづくー

ヒロ田

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