2006年12月21日。
いつもと変わらない朝を迎えた。
今日は大腸バイパス手術の日だ。
不安も緊張もない。
手術前日には万が一あったらどうしようか?
という不安があった。
だが不安に思っていることを聞いたり、自分
の気持ちを伝えたりすることで不安は無くな
った。
後は手術を待つのみだ。
ボクは起きてからも手術後のイメージを
していた。
看護師さんから腹腔鏡手術後の流れを聞いて
いたボクは、手術後一週間で退院できるよう
イメージした。
看護師さんの話だと、腹腔鏡手術をした
患者さんは、みんな翌日から病院内を歩いて
いるとのことだった。
むしろ歩かなければ癒着する可能性があるの
で、積極的に歩いてくださいと言われた。
この話を聞いたボクの頭の中は、『腹腔鏡
手術の次の日には歩けるくらいまで回復
するんだな』というイメージが出来上がった。
となれば手術後スッキリして仕事もできる。
そしてボクの主治医(消化器内科の医師)が
手術したら食べれるようになるとも言って
いた。
順調にいけば12月28日に退院だ。
年末年始ゆっくりしながら食事ができるぞ。
そう思うと顔がニヤけてくる。
そういったことから手術への不安や恐怖心
ということよりも、早く手術して年内に
退院したい。
その後は楽しい食事が待っている。
と、かなり前向きに考えていた。
手術を待っている時間、少しだけ手術の
ことを考えた。
麻酔をしてしまえば意識が無くなっている
ので痛いことなど分かるはずもない。
なので手術中のことは気にしてもしょうが
ない。
ただ、意識あるときにされる麻酔はどのよ
うにするのか?
起きているときに背骨に細いチューブを
入れると言ってたが、痛くはないのか…?
そういったことは少し気になった。
『痛くなければいいな』
という程度のことだけなのだが…。
頭の中のほとんど、8割くらいは手術後の
ことを考えていて、どちらかと言えば手術
することにワクワクしていた。
11時になった頃だろうか…。
看護師さんが何かを手に持って病室にきた。
まず手渡されたのは白いストッキング。
これはエコノミー症候群にならないように
するためのものらしい。
次にお腹周りの剃毛。
剃毛が終わると、へそをキレイにする。
痛くは無いのだが、くすぐったくて力が
入る。
何度かお腹に力が入ってしまった。
ただ、看護師さんがやりづらいと困るだろ
うと、意識を集中させ何とか無事に終了。
看護師「手術は12時30分くらいになりそう
です。手術の時に着る病衣を置いていきます
ので手術室から呼ばれたら着替えて一緒に
手術室まで行きましょう」
そう言い残しナースステーションに戻って
いった。
こういった準備が進んでいくと、
『いよいよ始まるのかー…』
と、気持ちも高ぶってくる。
『テレビドラマとかのようにストレッチャー
とかに寝て点滴されながら手術室に入って
いくのかなー…』
『途中で麻酔が切れたりしたらどうなるん
だろ…。痛いんだろうな…』
『手術が終わったら次の日から歩くようだ
けど、それまで寝たきりということか…?』
『テレビ見たり、ある程度の自由はきくの
かなー…』
そういった細かいことを考え出した。
『ただ今さらそんなことを聞いてもね。
大したことじゃないし…』
そんなことを自分に言い聞かせながら
看護師さんが来るのを待つ。
しばらくすると、
「ヒロ田さん、手術室から呼ばれました」
そう言いながら看護師さんが病室に入って
くる。
ボクは予め渡されていた手術用の病衣に
着替えた。
看護師「じゃあ私と一緒に行きましょう」
あれ…。
テレビドラマのように手術室への移動は
ストレッチャーに寝ながら…というイメージ
だったのだが…。
これが何と歩いての移動だった。
手術室の前に着くと、手術室の看護師さんが
待っていた。
そこで病棟の看護師さんがボクの名前やらを
伝えている。
ここで病棟の看護師さんとはお別れ。
ここからは手術室の看護師さんに従う。
看護師さんに誘導され、手術室に入ると
ずいぶん広いところだと感じた。
『へぇ~手術室ってこうなってるんだー』
そう感心しながら看護師さんについていく。
手術台の前に来た。
前日に打合せした麻酔科医もいる。
顔を合わせたことがある人と会うのは何と
なくホッとするものだ。
看護師「ではヒロ田さん、こちらのベッドに
寝てください」
何だかスピーディーに進んでいくゾ…。
もう少しゆったり会話しながらいくのか…
と思っていたが流れが早い。
手術用の病衣も便利なものだ。
寝たまま全裸になることができるようだ。
麻酔科医「じゃあヒロ田さん、先に手術後に
自動で注入される痛み止めをつけますので
向こう側を向いて背中をこちらに向けて
もらっていいですか」
ヒロ田「あっ、はい。こんな感じでいい
ですか?」
麻酔科医「はい、いいですよ。それじゃ
ちょっと押された感じしますからね」
おそらく背骨に局所麻酔を打ってから細い
チューブを入れたと思うのだが、痛みは
ない。確かに押された感じはあったが…。
麻酔科医「じゃあヒロ田さん、終わった
ので仰向けになってもらっていいですか」
ヒロ田「早いですね。まったく痛くなかっ
たです」
麻酔科医「そうですよね。それじゃ次は
麻酔打っていきますね」
ヒロ田「あれ、点滴とかそういうのはしなく
ていいんですか?」
麻酔科医「(笑)そういう痛いのは、麻酔が
効いてからやりますよ」
ヒロ田「あっ、そうなんですね。それじゃ
お願いします」
麻酔を打つ直前、これまた前日打合せした
外科医師が寝ているボクのところに来て
「では始めますね。よろしくお願いします」
ヒロ田「あっ、よろしくお願いします」
こうしてボクの手術がスタートしたのである。
ーつづくー
ヒロ田