「もう終わるからねー」
医師は局所麻酔をしながら、そう声掛けを
してくれる。
少しでも痛みを和らげようとしてくれてる
のだろうけれど、注射針を刺すとき、そして
麻酔の液を入れてる時も痛みがある。
時間にしたら長い時間ではないのだろうけど
麻酔されてる側からすると長く感じるものだ。
『おっ、どうやら麻酔が終わったようだ』
「パンチ持ってきてー」
医師が看護師さんにそう言っている。
『何だパンチって?切開する(穴を開ける)
道具なのか?』
『そんなことより麻酔してすぐだけど、麻酔
は効いているのか?』
心の中でそんなことを思う。
医師「じゃあ切開するよー」
そう言いながら、おそらくパンチと言われる
もので切開した。
『うゎ、痛ってぇー』
皮膚に痛みが…。
ボク「先生、けっこう痛いですねー」
医師「いま切開したから楽になってくると
思うよ」
飛び上がるほどの痛さではなかったから
麻酔が効いていたとは思うのだけれど、
それにしても睾丸付近の柔らかい皮膚
だったからか痛みを凄く感じた。
今まで何度も切開しているのだけれど、
この時が自分の中では一番痛かった。
ボク「いや~先生、やっぱり睾丸付近
だったからか痛かったです。
しかし、こんなところに膿が溜まる
なんて、そのうち尿道とかにつながること
無いですかね?」
医師「溜まるんだなー。オレも初めてだ。
尿道にはどうかなー、何とも言えないな」
ボクは、切開したあと尿道とつながる
ことは無いのだろうか?
もしつながったらどうなるのか?と
急に心配になってきた。
しかし、そんなことが気になっている
以上に体調も悪化していたのである。
痔ろうだけではなく、お腹にも異変を
感じていた。
食べてしばらくすると、お腹がジクジク
痛んでくる。
更に、お腹が張った感じがして食欲もない。
ボクは食事を止め、絶食してエレンタール
だけに切り替えていた。
エレンタールにして様子を見てみようと…。
だが、エレンタールだけにしていても
同じような痛みが出てくる。
どうやら痛いのは大腸の一部分のようだ。
エレンタールを摂取して、大腸の一部分を
通過するときに痛みが出ている感じがする。
『食べているときに痛みが出てくるなら
わかるが、エレンタールだけにしても
痛みが出てくるってどういうことだ?』
ボクはだんだんと不安になってきた。
体調も良くないうえ、体重も減っていく。
『何でだ?絶食してるのに…』
『何でだ?無理なことしてないのに…』
『何でだ?何でこんなことになるんだ?』
いつもであれば絶食してエレンタールだけ
にしていれば、3日もすると体調は良くな
る傾向にあった。
でも今回は違う。
『何が起きてる?』
ボクはいつもと違う症状に、どう対処して
いいのか悩んでいた。
『悩んでいても、不安な気持ちだけ持って
いてもしょうがない。
次の消化器内科の受診日まで時間はある。
けれど、これは主治医に電話して早めに
診てもらったほうがいいな…』
以前のボクであれば間違いなく次の受診日
まで我慢していた。
けれど、ボクも今までの経験から学習でき
ていた。
『自分で判断せず早めに相談しよう』
自分ではわからない。
主治医に相談したほうが早い。
ボクは病院に電話をかけた。
ボクは予約変更して病院に行く。
医師「どうしたい?」
ボク「いや~、なんかエレンタールだけに
してるんですけど、消化される時というのか
大腸の一部分を通過するとき痛みが出るんで
すよー」
医師「エレンタールだけで?」
ボク「そうなんですよ。エレンタールだけに
してるんですけど、通過するときに、この
辺り(右の下腹部)が痛むんですよねー」
医師「ホントー。あれ、どうしたのかなー。
大腸カメラしたのっていつだっけ?」
そう言いながら医師がカルテを見る。
医師「あー、1年くらい前かー。
ちょっと検査してみようか。
いつだったら大丈夫だい?」
ボク「それなら早いほうがいいですよねー。
先生のカメラできる曜日って早くて明後日
でしたっけ?」
医師「あー、そうだねー」
ボク「明後日空いてますか?」
医師「ちょっと待ってよー。あっ大丈夫
だわ。
じゃあ明後日で入れとくかい?」
ボク「はい、明後日でお願いします」
大腸カメラも何度目だろうか…。
もう大腸カメラも慣れているから抵抗は無い
のだが、ちょっとニフレックという下剤を
飲むのが面倒だ。
いつものように院内薬局に行き、ニフレック
をもらう。
同時にパイナップルのフレーバーももらう。
アップル、パイナップル、フルーツミックス
の確か三種類フレーバーがあった。
今までのボクはアップルをもらっていたのだ
が、パイナップルを一度試してから、ボクに
はパイナップルのフレーバーが合っているこ
とに気づいた。
フルーツミックスはちょっぴり甘い。
アップルも最初のうちいいけれど、飲み進め
ていくうちに飽きてくる。
パイナップルは飽きもせずボクにはちょうど
良い。
ニフレックとフレーバーをもらい帰路につく。
『明後日は検査かー。どうなってるんだろ
オレの大腸は…』
今までクローン病で経験したことのない腹痛
というものをこの時に初めて経験し、ボクは
不安を抱えていたのである。
ーつづくー
ヒロ田