第57話 離れて住んでいる母親の料理が食べたくなった

第57話 離れて住んでいる母親の料理が食べたくなった

実家に帰る日は12月31日。

いつも実家に帰るときは日帰りパターンだが、

今回は一泊する予定だ。

クローン病になってからは、絶食している

こともあり、実家に帰ることを避けていた。

もちろん仕事が忙しく、休むことなく仕事

していたというのもあるのだが…。

ボクはクローン病になってから、実家の両親

含め、人と会うことを極端に減らした。

なぜなら、人と会っているとご飯を食べる

機会やお酒を飲む機会が増えるからだ。

例えば、午前の10時頃に人と会う約束を

したとしよう。

お茶を飲みながら打ち合わせという予定が、

時間が少し長引く。

終了して時計を見てみると、11時30分を

指している。

すると「ヒロ田さん、昼食でも一緒にどう

ですか?」という展開だ。

「あっ、ごめんなさい、この後も予定が

入ってまして…」

とお断りしなければいけなくなる。

家族や友人も同じで、クローン病で今は

絶食中と知っていても、ご飯を食べる時間

はどこかで来る。

「オレは食べないので食べていいよ」

と言ったとしても、大抵の人はボクに合わせ

て食べないのである。

そうやって最初のうちは断ることができる

のだが、毎回断っていると相手から誘われ

なくなる。

というよりも誘いづらくなる。

ボクも逆の立場で考えると誘いづらい。

もしくは『オレのこと嫌いなのか?』と

変にそう思ってしまうだろう。

そう考えると、絶食中は人と会うのが

面倒だなと考えるようになり、ボクは

あまり人と会うことをしなかった。

と言っても、ボクの会社や良く会ってる

友人は知っていたし、食事の時間を避けて

会ってくれていたので、何も問題はなかった

のだが…。

そんなことで絶食していて、なおかつ仕事が

忙しかったボクは、実家に帰ることをして

いなかった。

だが今回の12月31日の大晦日は違う。

ボクは母親の料理を食べると決めていた。

お酒好きの父親と、お酒を飲むことはできな

いけれど、話をしながら一緒にご飯は食べる

ことはできる。

しかも今回は一泊すると決めていた。

クローン病になって、そして手術して改めて

両親と過ごしてみたいと思っていたのだ。

母親と電話やFAXで打合せしながら、食べ物

を決めていく。

ちょっと年越しする感じの食事ではないが、

鍋物が良いのではないか?ということに

なった。

豆腐や魚などクローン病にとっての安全食

が、鍋物だとけっこう多い。

鍋だとボクの食べれる食材を選んで食べる

こともできるし、ボク以外の人も好きな

ものを選んで食べれるということを考え

ると一石二鳥だ。

作る人もそんなに気を遣うこともない。

ボクは大晦日に帰るのが楽しみになって

きた。

大晦日まであと2日。

ボクは帰るまでに、無理なことをせず具なし

の味噌汁と雑炊で胃腸を慣らすことにした。

同時にエレンタールの摂取も始めた。

というのも具なしの味噌汁と雑炊だけでは

カロリー不足になるのではないか?

という懸念があったので、念のため始め

たのだ。

実家に泊まるのはホント何年振りだろうか。

十年以上は泊まっていない。

いつも日帰りだったから…。

今回は、久々に泊まることになり、着替え

などの準備もした。

今回の一番の荷物はエレンタールの道具だ。

一泊するくらい、エレンタールはしなくても

良いかな…?とも考えたのだが、エレンター

ルは主治医の診察の時まで続けようと思い、

持っていくことにした。

一泊なんだけれど、キャリーバックに

いっぱいの荷物になってしまった。

実家までは、車で2時間ちょっとだ。

幸い、車の運転は嫌いではない。

むしろ車を運転している時に、いろいろと

頭も整理できるので、適度にドライブする

のはボクにとって良い気分転換になる。

また2時間くらいだと1人で運転する分には

ちょうど良い時間だ。

ボクは4人家族。

両親と兄、そしてボクという家族構成。

社会人になってから4人で年越しをすると

いうことがなくなった。

いや、年越しどころか実家で4人集まると

いうことはまずない。

今回の大晦日も兄は来ない。

来ないというよりも遠くにいるので、来たく

ても来れないと言ったほうが良いか…。

そんなことでボクと両親の3人だけで

年越しをする。

久々の実家で一泊は何となくワクワクした。

話すことはたくさんある。

過去の思い出話も、最近のそれこそ手術の

話しも…。

ボクはいろんなことを考えながら実家へと

車を走らせた。

2時間もすると久々の実家が見えてきた。

一泊するなんて十数年ぶりかもしれない。

ボクは旅行に行くかのような荷物を

車から降ろし、家の中へと入っていく。

バッグの中身のほとんどが、エレンタールの

道具だ。

泊まるとなると、何だか不思議な感じがする。

親子なんだけれど、親子じゃない感じと言え

ばいいだろうか…。

そういえば誰かが言っていた。

『いくら親子でも何年も一緒に住んでいなか

ったら、お互いが気を遣って一緒に住んでも

上手くいかないんだよねー』と…。

何となく言ってることがこの時わかった

ような気がする。

一緒に住んでない期間が長ければ長いほど、

どこかよそよそしくなってしまうものだ。

でも、今回はこの一泊を楽しもう。

何より、親の作った手料理が食べたい。

そんな気持ちが強かった。

実家に着いた時間は16時くらいだったろうか。

すでに母親は晩御飯の準備をしている。

父親は、テレビを見ながらボクを待っていた。

父親は毎日1~2杯程度の晩酌をする人だ。

祝い事がある時は、いつも以上にお酒を飲む。

それくらいお酒が好きなのだと思うけれど、

残念ながらボクは一緒にお酒を飲むことが

できない。

今まで不良患者ぶりを発揮して、NG食を

食べたりしたけれど、さすがにお酒だけは

飲んでいなかった。

でも、お酒のことより、話すことがたくさん

というのか、息子のことが気になるのかわか

らないが、いろいろ聞きたいことがあったよ

うで、父親から質問攻めにあい、それに答え

ているだけで時間は過ぎていった。

田舎の大晦日は早い。

もうほとんどの家庭では18時になると外に

出る人はいない。

『あー懐かしいなー。こうだったな昔も…』

ボクは昔と変わらない田舎の大晦日に、どこ

となく嬉しさを感じたのである。

『変わったのは、両親とボクの年齢くらい

か…』

でも、まったくそんな感じはしない。

何だかとても不思議な感じだ。

感覚的には20年前と何も変わってない感じが

したからだ。

実家に到着してから、あっという間に二時間

の時間が経過したのである。

-つづく-

ヒロ田

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